1. 「Meet a Hero!~不安な時代を生き抜く強さを学ぶ~」

イベントは、代表理事・濱川明日香の挨拶からスタート。
Earth Companyは、これまで19カ国で37のプロジェクトを支援、累計614万人の人々に支援を届けてきました。これまでの活動の歩みに感謝の言葉を述べながら、「2030年までにインパクトヒーローを100人に増やしたい」と意気込みます。
続いてモンゴルから来日したオユナが登場。明日香はオユナを「まるで7回くらい人生を生きているようなスーパーウーマン」と表現します。まさに彼女の人生は困難の連続でした。それらを乗り越えてきた“しなやかな強さ“と“深い愛“の源は何なのでしょうか。

オユナの人生の転機は21歳のとき。
「その年、私は妻になり、母となり、そして4ヶ月の息子を抱えるシングルマザーになった。3つのことを同時に経験したんです」
同年パイロットだった夫を亡くしたオユナ。当時モンゴルは、社会主義から民主化へ移行する激動の時期でした。悲しみのなか、混乱する社会を変えるべく、政治の道を目指します。
初めての政治スピーチは、3人から300人?
ヒッチハイクや遊牧民の馬で各地を訪ね、政治演説をしたオユナ。初めてのスピーチに集まったのはわずか3人だったと言います。若く政治のことも分からなかったオユナですが、自身が願う未来のあり方を3時間にわたって語りました。その後、彼らと再会すると、口コミで300人が集まったそうです。演説を重ねるうちに、オユナはビジョンを共有する楽しさに気づきました。
政治家としての副業は、ベストセラー作家?
24歳で政治家となったオユナは、政治家としての資金難に直面。そこで始めたのが執筆活動。元々書くことが好きだったオユナは、後にベストセラー小説家にもなります。国会議員・大臣としては、無罪で苦しむ人のために死刑制度の廃止に貢献したり、家庭内暴力を犯罪として扱うことを実現しました。さらにアメリカに不法な形で渡ったモンゴルの化石を取り戻したのだと誇らしげに語ります。

そして50歳から始めたのが、モンゴルのトイレ問題解決に向けた挑戦。
モンゴル首都ウランバートルには、水道も電力供給もない「ゲルエリア」と呼ばれる約170万人の貧困層が生活する地区があります。そこでの不衛生な竪穴式トイレを、安全で環境に優しいトイレに変える活動を始めます。
しかし実際に活動してみると、問題は経済や技術的な面ではなく、文化や意識に根づいていることに気づきます。
「皆さんにも想像してみてほしいんです。ある日水洗トイレが使えなくなって、水で流さないトイレに変わったら、抵抗を感じるのではないでしょうか。モンゴルでも同じです。“水洗トイレがない家=経済的に恵まれない ”という社会的スティグマによって、語ることを避けられてきたトイレを変えることはつまり、意識を変える“教育”としての挑戦になるんです。」
そこで彼女は、NGOや産業といった多くのセクターを巻き込みながら、根本的なモンゴルのトイレ問題の解決に挑んでいます。

Earth Company インパクトヒーロー支援担当の島田颯は、「タブーを打破する原動力とは何なのでしょう?」と尋ねると、オユナは答えました。「タブーというのは、人びとが片方に寄っている状態だと思うんです。」
彼女は多数派によって虐げられた少数派の人びとの傍に立つ大切さを語ります。
「トイレの活動を始めたころ、私は一人でできると信じていました。しかし実際は、多くのセクターや人との協力なしでは根本的解決は実現しないことを知ったんです。自分が正しい、向こうが間違っているという考えを捨てること。相手の立場に立って、みんなにとってプラスになる場所がどこかを考える大切さを学びました」
また参加者から「あなたの自信の源は?」という質問が出ると、
「自信というのは、行動した後についてくるものです。例えば、泳ぎ方を学ぶには、まず足を水につけてみなくては始まらない。やってみることが自信を作る第一歩なんです」と微笑みました。
さらにオユナは、母親の存在や遊牧民としての価値観にも触れました。
「私の母は常に“やってみなさい”と背中を押し続けてくれる人でした。また壮大な自然のなかで道に迷った時に、頼れるのは自分だけ。私自身が自分を導かなくてはいけないという経験から学んでいます」
人と人を愛と理解でつなぎ、自然とともに生きるオユナの強さ。
会場の誰もが静かに心を動かされました。