7月 22, 2024

【ご報告】フィリピン・パラワン島で自然環境保護活動を行う団体を訪問!(レポート・後編)

2024年6月21日、インパクトヒーロー支援チームは、違法伐採や違法漁業問題に取り組むパラワンNGOネットワーク(PNNI)のオフィスを訪問しました。 PNNIはImpact Heroes2024年度生ロバート・チャンが代表を務める団体です。ロバート自身は弁護士として対応している裁判があり直接会うことはできませんでしたが、実際にPNNIのオフィスを訪れ、ロバートと長年一緒に仕事をしているスタッフから話を聞くことができました。今回のレポートでは、私たちが見て、聞いて、感じたパラワン島の現状と、そこでPNNIが行っている活動についてご紹介します。

 

Impact Heroes 2024年度生 ロバート・チャン

フィリピンで環境弁護士の資格を持つロバート。自然資源の豊かなパラワン州の森林や海の環境が、違法伐採や違法漁業によって破壊され続けている現状を打破すべく、地元の農民、漁師たちと協力して、違法な環境破壊活動を止めるための抵抗活動を行うと共に、啓発活動などを通した地元コミュニティに対するエンパワメントにも取り組んでいる。(詳しくはこちら

 

 

「フィリピン最後の秘境」パラワン島

 

「フィリピン最後の秘境」とよばれる美しいパラワン島

マニラの南西に位置するパラワン島は「フィリピン最後の秘境」とも呼ばれています。生い茂る手つかずの原生林や一面に広がる田んぼ、白い砂浜と透き通った海…実際に訪れた私たちも壮大で美しいパラワン島の自然の魅力に心を奪われました。

パラワン島には多くの固有種が生息する豊かな自然環境が広がっており、フィリピンに存在する475種の絶滅危惧種のうち、なんと105種がパラワン島に生息しています。そのうち42種はパラワン島の固有種です。この豊かな生物多様性は、パラワン島のみならず、世界全体の生態系のバランスと保全において非常に重要な役割を果たしています。

 

 

パラワン島にせまる開発の波

しかし、この美しい島は深刻な問題を抱えています。それは、観光開発と経済発展の波に押され、貴重な自然環境が破壊されつつあるという現実です。

2001年から2023年の間に、パラワン島で消滅した森林の面積は約21万ヘクタールと言われており、これは東京都とほぼ同程度の面積です。森林面積は2000年と比較して17%も減少しています。

観光地として人気が高まりつつあるパラワンでは、森林が伐採されその木材を使って新たなホテルやリゾートの建設が進んでいます。しかし、そうした観光施設の多くは首都マニラや他の国の資本によって建設され、地元経済はその恩恵を受けることができていません。パラワン島では多くの人が農業・漁業に従事しています。最低賃金は一日369ペソ(約1,000円・首都マニラの2/3以下)程度で、子どもに大学まで十分な教育を受けさせることは難しいといわれています。

 

 

貧困から違法伐採に手を染める人たち

そうしたパラワン島において、美しい自然に手をかけ木々を切り倒しているのは多くが地元の農業・漁業に従事する人たちです。違法伐採者は木を切り倒し観光・経済開発を推進している資産家やビジネスオーナーたちに雇われることでお金を得て、生活の糧としています。

 

多様な生物が生息する、手つかずの原生林

 

パラワンには環境を保護する法律(パラワンの戦略的環境計画法)がありますが、厳格に運用されておらず、警察もこうした違法伐採者への取り締まりは行っていません。その背景として、違法伐採者から木材を買い取っている資産家・ビジネスオーナーたちと政治家・警察との癒着が指摘されています。

 

違法伐採を止めるための抵抗活動

 

パラワンNGOネットワーク(PNNI)オフィスの入口に掲げられた看板

 

PNNIチームはパラワン島で起こっているこの深刻な問題に対し、市民による違法伐採者の現行犯逮捕と民事訴訟という方法で向き合っています。

パラワン島には23の自治体コミュニティがあり、どこかで違法伐採が行われた場合、このコミュニティメンバーからPNNIへ通報が入ります。1日10件以上もの通報があるということですが、対応できる人員・資金に限りがあるため、全ての通報に応えることはできません。PNNIチーム内で検討し優先順位を決めた上で、1週間に1度、各現場へ出動します。

 

PNNIスタッフ(左)から話を聞く代表理事・濱川明日香(右)

 

PNNIメンバーが現場に到着すると、コミュニティメンバーと作戦会議をしたうえで、違法伐採現場の取り押さえを行います。活動に参加するPNNIとコミュニティメンバーは決して武器を持ちません。あくまでその場での取り押さえを目的としており、違法伐採者を傷つけることは望んでいないからです。

違法伐採の現場に到達すると、違法伐採者の身柄を押さえ、チェーンソー等の道具を押収します。PNNIとコミュニティのチームは違法伐採者に対して決して声を荒げない、怒らないということを徹底しています。彼らを刺激せず穏便に取り押さえを完遂するためであり、現場で実行に関わるメンバーには必ずPNNIが違法伐採者とのコミュニケーション方法についてのトレーニングを提供しています。

その後、PNNIは違法伐採者に対して行政訴訟を行います。これは、違法伐採者自身に、自らを省みる機会を与えるためです。以前は刑事訴訟を起こしていましたが、その場合は違法伐採者自身が捕らえられ、家族の元へ戻ることができなくなります。そうすると、彼らの妻や子どもたちなど家族がPNNIのオフィスにやってきて、泣きながら「夫を、父を、兄弟を、刑務所に入れないでくれ」と懇願してきたといいます。違法伐採者の多くも貧しい生活の中でやむを得ず、家族を養うために違法伐採に手を出しているのです。PNNIは彼らが森林を伐採する手段(チェーンソー)を押収するとともに行政訴訟を通じて彼らに更生の機会を与える活動を行っています。

 

実際に押収されたチェーンソーの写真

 

また、森林での違法伐採だけでなく、ダイナマイトやシアン化合物を使って魚を気絶・麻痺させ大量に回収する違法漁業も行われており、PNNIはこうした違法漁業現場の取り押さえも行っています。こうした違法漁業はパラワン以外の州や他国から来る大企業により行われており、過剰な漁獲に加えて爆発や薬品によるサンゴ礁や海草、マングローブ林の破壊により魚の生息地が奪われ、魚の数が減り続けています。貴重な資源が奪われているだけではなく、これまで漁業により生計を立ててきた住民の生活までもが脅かされている状況です。PNNIはコミュニティメンバーと協力してこうした違法漁業者にボートで近づき、違法伐採者への対応と同様に、現場の取り押さえと記録、行政訴訟を行っています。

 

PNNIの事務局スタッフから直接こうした抵抗活動についての話を聞くと、彼らがどれだけの労力と犠牲を払ってこの活動を行っているのかということを強く実感し、スタッフとコミュニティメンバーへ大きなリスペクトの念を抱くとともに、パラワン島開発の課題の深刻さをより一層感じずにはいられませんでした。

パラワン島で行われている違法伐採・違法漁業の根本的な原因は、豊かな自然の貴重さや地元住民の生活を考慮せず無計画な観光・経済開発を行う業者と、それを規制しようとしない政府にあります。この開発の動きを止めない限り、パラワン島の美しい自然と地元の人々の暮らしを守ることはできません。PNNIもアドボカシー活動を通じて開発を止めることを訴えていますが、開発業者と政府の癒着もあり、すぐに状況を改善するのは難しい状況です。

その一方、こうした開発の影響を被っている地域では、残念ながら生計を立てるために違法伐採・違法漁業に手を出す人は絶えず、さらにこうした違法行為の影響で林業や漁業が続けられなくなる、という悪循環が生じています。違法行為の影響を受ける地元コミュニティの人びとからの要請に対して、本来取り締まりを行うべき警察も開発業者との癒着のため正常に機能しておらず、対症療法としてPNNIが動かざるを得ないという、非常に深刻な状況にあるのがパラワンの現状なのです。

 

PNNIの活動についてもっと詳しくご覧になりたい方は、こちらのHPよりご確認ください。

 

以上、フィリピン訪問レポートでした。今回のフィリピン訪問では、各現場で起こっている課題と、それを解決するために活動している人たちの熱い思い、そして何よりそこで暮らす人たちの温かさに触れることができました。Earth Companyはこれからもこうしたひとつひとつの課題に寄り添い、私たちだからこそできる支援をとどけていきます。