【10周年記念対談】為すべきことを為せば、結果(利益)は後からついてくる
100年企業を目指し、未来志向のベンチャー企業と共に歩む
濱川:株式会社日ノ樹とEarth Company の出会いは、2016年でした。当時、私たちはインドネシアで無償医療を提供するImpact Hero 2016ロビン・リムを支援していましたが、ご寄付を即決してくださったことへの感謝と感動は今でも忘れられません。
今日はいろいろとお話をお伺いする前に、御社の事業についてお聞かせいただけますでしょうか。
内田:日ノ樹は戦前には、蔵前にて高級家具の製造卸をやっておりましたが、戦争で職人さん達が出征し、また空襲で焼け野原になってしまったのを機に、不動産業に転換したと聞いています。当時、日ノ樹の創業者は不動産の知識はありませんでしたが日本橋のさくら通りの不動産屋に毎日通い不動産の知識を修得、日本橋高島屋の近くで創業しました。その後、地道に事業を展開していましたが、1980年代後半のバブルにより資産価値が一気に上がりました。
私が入社したのは今から20年前になります。私は元々は第一勧業銀行に長年勤務しておりましたので、異業種から入社した形になりますが、その後、色んな改革を進め、この会社を100年企業にするためにはどうすればよいのかを考えた結果、若い起業家を物心両面から応援することで社会に貢献するという考えにたどり着いたのでした。
その間には、会社の資産内容を精査し、売却すべき物件、残すべき物件等に仕分けし、残すべき物件については耐震補強も含めた大規模改修を実施し、徹底的に質的向上を図りました。そして財務状況を大幅に改善しました。
現在では不動産と言う有形資産とベンチャー企業のみならず、女性の社会起業家支援等に至るまでの幅広い支援を行っています。私は有形資産と無形資産を車の両輪と考え事業展開しております。
ベンチャー等の支援では、具体的には教育から宇宙開発に至るまでの幅広い業種、またアジア、アフリカ、中東、ヨーロッパ、アメリカに至る地球規模のスケール、それから難民の方々の支援活動に至るまで幅広い活動を行っています。
濱川:教育から宇宙開発までということですが、そこにはどのような想いがあるのでしょうか。
内田:我々の住んでいる地球は危機的な状況にあり、人口も80億人から100億人に増加していきます。未来の事を考えれば学び・教育と宇宙開発の技術は必要不可欠であると思います。
学び・教育は、未来への懸け橋であり、お金が有る無しに関わらず、みな平等に受けるべきであると思います。また、宇宙開発の高度な技術は地球にも応用が十分に可能です。この両面は人類の平和、発展に貢献し得ると考えたのです。
ここで一つの奇跡的な出会いをお話させていただきます。私が教育と宇宙をテーマとしている若い起業家をサポートしたいと思っていた2013年9月に、ある大手新聞の第1面に2行の記事でしたが、日本初の月面探査車開発の民間宇宙ベンチャー企業のispaceの紹介記事が掲載されていたのでした。私はこれだと思い、ホームーページのアドレスから創業者の袴田武史さんに一方的にメールをしたのです。袴田さんの事業を応援したいと思っていますと。
そうすると2時間程してから奇跡的に返信があったのです。それがご縁の始まりでした。後々聞いた話ですが、何とその月で資金が枯渇し事業を断念する覚悟でいたそうです。それからオフィスへの誘致、寄付、融資、金融機関紹介、融資の保証人、最後に出資をさせていただきました。
袴田さんとの約束は、袴田さんがispaceの事業を最後までやる覚悟があれば私は最後まで応援しますという事だけでした。お互いの信頼関係を最大限重要視してやってきました。
そして、昨年の4月12日に宇宙ベンチャー企業として初めて上場を果たしました。ただし、袴田さんが仰っているように上場は一つの通過点です。これから10年、20年後を見据えた構想が控えています。なお、この冬には月面軟着陸に再チャレンジします。
ちなみに,ispaceは現在25か国から250名のエンジニアスタッフを抱えています。そして日本、アメリカ、ルクセンブルグを拠点としたヨーロッパで活動しています。
また、学び・教育では同じ2013年の5月にGakkoの創業者の古賀健太氏に出会いました。彼は当時イェール大学の3年生で21歳でしたが19歳で起業し、Gakkoサマーキャンプの開催のための資金を捻出するために、プロのマジシャンとして世界ツアーを実行していました。そして、最後の開催地を日本と決め、会場を私共の麻布台の樹ホールで実施してくれました。
1時間半のマジックショーの終わりに私の所に挨拶に来てくれ、Gakkoの名刺を渡してくれたのです。その1枚の名刺がきっかけで、これまでサポートさせていただいております。Gakkoは新型コロナによる4年間の活動中断がありましたが、これまでに135か国以上で1350名のGakkoコミュニティが構築されています。
濱川:「学びと教育」「宇宙」とそれぞれに運命的な、若者たちとの出会いがあったのですね。しかし御社が支援されている活動は、女性のエンパワーメントや難民問題、気候変動など多岐にわたります。
内田:根本の考え方は、人は皆、すべからく平等であるべきであるとの考え方です。また、共助、共存の考え方でもあります。私は思いやりの経営を目指してこれまでやってきました。
濱川:本当に素晴らしい精神ですが、一方で企業の在り方としてそれを実現することはとても難しいのではと思います。
内田:確かに継続して実践していくのは大変ですが、非営利事業と営利事業は車の両輪と考えています。
中長期的な視点で考えれば、本質が見えてくると思います。
一番大事なことは「思いやりの心」
濱川:そのお考えには本当に共感します。しかし今の社会では、たとえば企業が営利活動を行う一方で、NGOが資本主義経済が生み出した社会課題や環境問題の解決に取り組むというように、営利と非営利が分離しています。内田社長は、そのお考えとしてそれが分離していないのが素晴らしいと思いました。そしてさらにそこに愛情と情熱を感じます。
内田:私は若い人のビジョン・ミッション・パッションという無形のものに無限の可能性を感じます。そこには、お金に変えられない価値があると思っています。
濱川:不動産という有形資産を事業とされる御社が、無形の「想い」への支援に力をいれているのは、とても興味深いです。御社とEarth Companyは、2016年の出会いから8年になります。コロナパンデミックなど、苦しい時にも必要な支援をしてくださいました。パンデミック当時は御社も大変な時期だったと思います。そんな時期に信念を貫き通すのは大変ではなかったのでしょうか。
内田:目の前の大変さと言った事は沢山ありますが、中長期的な経営の視点で物事を考える事が重要であると考えます。そうするとやるべき事が見えてきます。
濱川:自分が大変な時に、中長期視点を持つことはとても難しいと思います。それでも内田社長がその中長期視点を持ち続けていらっしゃることに、とても強い信念を感じますし、その共助の精神は、NGOにも通じるように思います。御社ではその共助の精神が根底にある「武士道経営」を掲げていますが、それについて教えていただけますでしょうか。
内田:人として当たり前の事をやっているだけです。五つの徳とも言える「仁・義・礼・智・信」と言う五常は、人として大切にすべき道を説いていると思います。底辺に流れているものは、思いやりの心や信義を大切にする事、誠実である事ではないかと思っています。また、これは人としての振る舞いや品格にも繋がると思っています。
濱川:内田社長のお考えは、貧しい妊産婦に無償医療を提供する助産院を運営し続ける「愛の助産師」Impact Hero2016 ロビン・リムととても通じるものがあります。そして五常はインパクトヒーローに当てはまる部分が多い。日本の哲学でもある武士道精神が、アジア太平洋地域のインパクトヒーローにも共通することに今とても感動しています。内田社長がそのようなお考えに至った背景には、どんなことが影響しているのでしょうか。
内田:それは私の生い立ちが影響しています。私が3歳半の時に母が亡くなり、4歳の時に養母が来てくれたわけですが、弟がまだ1歳位でしたので、私は養母の実家にしばらく預けられたのです。その時に養母には大学生の弟や高校生の妹たちがおり、皆が私に優しく接してくれたのでした。その時に「血のつながりがなくても、こんなに優しく接してくれる人いるのだ」と身をもって体験したことが、私の原点です。
人の助け合い、優しさ、思いやりに血のつながりは関係ない。年を重ねた今、その思いはますます強くなり、私の行動の原点になっています。
濱川:幼少期の温かい経験が、今につながっていらっしゃるのですね。研修事業をしていると、サステナビリティの追求には、個々の中に「内なる自然」があるかどうかが大きく影響すると思わざるを得ません。内田社長は、自然豊かな環境で育たれたそのご経験が、今の世界観に影響していると思われますか?
内田:当時の日本は貧しく、九州の熊本の我が家では、ヤギや鶏を飼っていました。また、農耕馬や牛も身近で飼われていました。それが日常的で、動植物に触れ合う機会がたくさんありました。まさに自然との共生が当たり前の世界でした。
濱川:こうした幼少期のころの体験が、無形もの、目に見えないものを大切にするということに結びついているのでしょうか。お話をお伺いしていると、愛や自然との一体感、共生など無形なものが地球の発展にいかに大切かということが伝わってきます。
とにかく若者の夢や希望を応援したい。
濱川:私は人間の世界には本当は弱者も強者もないと思っています。今はお金や物を持っている人が強者と認識されていますが、天変地異でもあればその構図はある日突然覆され、人はいつ弱者になるかわかりません。先が見えない時代だからこそ、つながりを作っていく共助が大切だと感じています。Earth Companyを支援してくださったのは共助の精神からだったのでしょうか。
内田:世の中や我々にとって大切なものを教えていただき、また環境再生等にも積極的に取り組んでおられるからです。
私たちは未来のために、人々が平和で安心して暮らせる社会をつくりたいと思っています。Earth Companyは常に海外の困難な状況にある人々の事や環境問題を伝えてくれ、私たちは常にそこから学んでいます。そこに大きな意味があります。
濱川:私たちも長年この業界にいますが、インパクトヒーローから常に、私たちが知らない世界の現状について教えてもらっています。そしてそれはどれも心が痛む内容で、その現状を知った以上は、無視することができなくなるのです。
人類はそもそも、助け合い、人の役に立つことを喜ぶ生き物です。生まれたばかりの赤ちゃんが「善」そのものであるように、それが人が生まれ持った性質だからこそ、その性質に忠実に、喜びを持って生きる人が増えてほしいと思っています。インパクトアカデミー研修事業もその思いで展開しています。
内田社長は、「支援するべき活動は支援する」と、様々な条件や期限を決めずに支援をされていらっしゃいます。一般的にはインパクトの可視化や、活動範囲や地域が支援の条件としてあり、NGOが支援が受けられないことが長年問題視されてきましたが、御社はなぜそのような条件を課さずに支援をされるのでしょうか。
内田:条件を付けるのは、リスクを最小限にしたいという考えがあるのでしょう。私たちは、「リスクは相手に取らせない」という信念があります。もし、支援した先で何かあっても、それは自分たちの目利き力が欠如していたと考えます。
私たちが支援先に伝えているのは、「万一、うまくいかなかったら次をやれば良い。たとえ一人になったとしても続けていれば失敗とは言われない」という事です。正しいと思う事をやっていれば、必ず誰かがきちんと見てくれていると思いますし、その時が来ると思います。
夢やビジョン・、ミッション・パッション、志を私たちは信じて応援します。未来ある若い人たちを信じ切ることが大事で、そこに生じるリスクを私たちが受けることで世界を変える企業が生まれると信じています。
濱川:確かにそこまで自分を信じてもらえたら、若者は思い切ってチャレンジできますね。
支援や助成、投資では、インパクトやリターンという「結果」がすぐに求められ、それが社会変革の妨げになる現状もあります。しかし内田社長は、本当に慈悲の心や「やるべき活動かどうか」を考えられていて、時には受益者が1人の難民だとしても惜しみなく支援をされています。それにはどのような思いがあるのでしょうか。
内田:私たちが重視しているのは、ispaceとの出会いでも述べましたが、「本当に人生をかけて最後までやり遂げる覚悟があるのか」という事です。それは真剣に問います。そして、その覚悟こそが一番信頼できる最も強固なものだからです。また、我々の支援には期限を設けません。期限を設けないからこそ、支援した企業が大きく成長出来るのだと思います。
濱川:「支援すべき人は支援する」というのは、私たちもまさに同じ思いでヒーローたちを支援しています。今はその「支援すべき人」とはどのような人なのかを明確化するためにそれを定義し、クライテリアを設定して、スコアリングしているのですが、それでも迷うことは多々あります。内田社長は「支援するべき人」をどのように決めているのでしょうか。
内田:社会、人類にとって本当に必要とされるものであるのかどうかでしょうか。日ノ樹ファミリーの仲間たちはあらゆるジャンルの人々が集まっています。まさに多様性のかたまりです。
濱川:私は「心を動かされる何かがあるか」も、社会変革にとても必要だと思っています。社会変革には、「人を動かす」ことが必須ですから。これは教えられるものではなく、ただそこに「あるかないか」というものでもあり、そしてそれを持っている人たちこそ、インパクトヒーローたちなんです。
内田:インパクトヒーローと言えども、皆さん、同じ人間なのに、あれだけのパワーを発揮されているのは本当に素晴らしいと思います。そして、インパクトヒーローの皆様も取り組んでおられる自然との共生は、本当に大切だと思います。私も今まで「教育と宇宙」と言うテーマでも取り組んできましたが、最近は宇宙から地球、そして自然に戻ってきて農業や水産業との連携による第一次産業を支援しています。
人間として為すべきことと、企業として為すべきことは同じ
濱川:一人の人間ができることは限られていますが、そこに光があてられ多くの人に知られることで活動は発展し、その活動に希望の光を見出す人が増え、よい循環が生み出されていきます。私たちのインパクトヒーロー支援は、チェンジメーカーに「光をあてる」活動でもありますが、内田社長の活動もまさに同じだと思いました。
最後に、企業が難しい時代にあるなか、これからの企業はどうあるべきだとお考えでしょうか。
内田:個人も企業もみんな同じだと思うのです。物事は中長期的な視点で考えてみることが必要なのかと。とかく近視眼的に陥りやすくなりますから。
宇宙空間から地球を見ると考え方も変わると思います。G7などの主要国首脳会議等も宇宙空間から地球を眺めながら開催すれば自ずと話し合う内容は変わると思います。対立から協調へ。紛争から平和的解決へと議論は変わるのではないでしょうか。
社会の構造も変えなければなりませんね。男性中心から女性が積極的に社会進出ができ、発言できる機会を増やさなければならないと思います。そうすれば、もっと平和な暮らしやすい社会になっていくと思います。また、紛争や戦争も起こりにくくなるのではないでしょうか。
濱川:宇宙からみれば、私たち一人一人が地球という一つの生き物のDNAなんですよね。まさに地球があってこそ人間が存在でき、企業としての経済活動もできますし、天変地異や経済界に革新が起これば、ある日突然強者が弱者になることも起こり得ます。そう考えたら地球上のどの団体も企業も個人も、みんな一つの生命体のDNAとして、お互いに助け合い育み合うことが人類の生存戦略であり、だからこそ、今、「共繁栄」、リジェネラティブな未来を目指すことが大事なのですよね。