4月のある週、忙しい合間をぬって、東京、熊本、ソウルからデザイナー達が集まってきました。
ゴミ問題を解決するプロダクトをアウトプットするために、バリで使える時間は2日半。
バリでのゴミ問題の現状や解決に取り組む人たちについてアース・カンパニーが、廃材やゴミを活用した世界のプロダクト事例を紹介し、各参加者(チーム)も事前にリサーチしているとはいえ、どんなものを作るか、チームでの合意はまだ何もありません。
美しい自然、田んぼに囲まれた早朝ヨガで始まる1日目。
初めて、あるいは10年ぶりのバリで、チームに高揚感が溢れる中、バリ最大のゴミ投棄場所に向かいます。
空港近くの幹線道路から1本入ったその場所には、想像を絶する光景が待っていました。
20万とも40万平米とも言われる広大な土地に高さ15メートルまで積み上げられたゴミの山。
焼却処理場がないバリの各地から、毎日数百トンのゴミが持ち込まれ、今もゴミ山は増殖し、強烈な異臭を放っています。
そこでは、リサイクル業者が買い取るプラスチックゴミなどを集める人たちが500人以上働いています(もちろん誰かが雇用している訳ではないです)。
道路1本挟んだ隣には、彼らの家族、数千人が暮らす貧しいコミュニティがあります。
経済状態も衛生、栄養状態も劣悪なそのコミュニティのために、小さな学校を運営するNGO(バリの別の地域で孤児院やスキルトレーニングセンターも運営)の案内で問題の深刻さ、コミュニティの現状を伝えられ、自然と言葉少なになるチーム…。
1時間ほどの滞在の最後、「ゴミ山に登ろう」とチームの一人が登り始めました。
生ゴミやプラスチックゴミ、人が生活する中で出るあらゆるゴミが集められたその山を歩き、頂上までたどり着くと、その先にはさらに広大なゴミが果てしなく広がっていました。
最初に登り始めた一人がぽつりと
「普通にこの課題に向き合うと、その大きさに絶望しかない。さて、どう取り組もうか」
とこぼし、
「ゴミの問題はどこの国でもあること。日本も見えにくくなっているだけで、実は同じはず」
とつぶやいていました。
振り返ってみると、私はここに、イノベーションの条件を2つみます。
一つは、「強烈な問題意識」です。「課題に対する現場感」とも言えます。
ゴミ問題について、ネットやニュースで知ることは頭、思考を使ったものですが、ゴミ山では、その問題を視覚、聴覚、あらゆる感覚(五感)で深く感じ取り、そこに暮らす人たちの感情にも触れ、強烈な体験としてチーム全員に刻み込まれました。
この体験は二つ目のイノベーションの条件、「思考の粘り強さ」にもつながります。
ゴミ山に行った後の話を少し先取りしてしますが、プロダクトアイディアを考える10時間以上の議論の中、チームの誰一人として・できない、自分たちには無理だ・バリの問題であって、自分たちには関係ないといったネガティブな言葉を発しませんでした。
その思いが頭をかすめることはあったかもしれませんが、課題解決のために自分たちは何ができるか、をしつこく、粘り強く考え続けました。
その前向きな姿勢はチームに良い影響を与え、新しいアイディアにつながります。