2025年7月、Earth Companyの支援チームは、Impact Hero 2023 オユンゲレル(オユナ)・ツェデブダンバの活動現場の視察のため、モンゴルを訪問しました。

折しもモンゴル初となる「トイレ教育センター」開設に向けたクラウドファンディング期間中の今回の訪問は、モンゴルの人々が直面する課題の深刻さと、オユナの取り組みの意義と必要性を肌で感じる旅となりました。

急速に拡大する「ゲル地区」の現実

 

高層ビルが建ち並ぶウランバートル中心部から車で20~30分。郊外の丘の上から見渡す限り広がる「ゲル地区」を目にし、私たちは圧倒されました。首都人口の約7〜8割が暮らし、その範囲は今も拡大中。舗装道路から未舗装の道が四方に伸び、その沿道には家々と伝統的な住居ゲルが点在しています。

<眼下に広がるゲル地区の光景>

さらに驚くことに、この地域の大多数の家が上下水道に接続していません。その理由は、各世帯で極寒の季節に水道管が凍らないようヒーターを設置する必要があり、その維持管理も含め費用がかかるからです。飲み水など生活用水は、首都郊外に1,100ヵ所以上ある給水所に水タンクを持っていき、水を入れて運んでいます。大変な作業です。私たちも、小さな子どもたちや女性一人が重いタンクを運んでいるところに遭遇しました。

<給水所で汲んだ水を運ぶ子どもたち>

限られた水資源の中で、水洗トイレは現実的ではありません。ゲル地区では「竪穴式トイレ」と呼ばれる、深い穴を掘って排泄物を溜める方式が一般的で、住居から離れた場所に設置されます。処理にも費用がかかるため、多くの家庭では溜まったまま放置し、新たな穴を掘って使い続けるのが実情です。

これが深刻な土壌汚染と健康被害の原因となっています。上下水道が整備されても、各世帯が利用できる状況でなければ、ゲル地区の拡大とともに汚染も広がり続ける——その現実に、モンゴル社会が直面している課題の深さを実感しました。

<竪穴式トイレ>

さらにトイレ問題の取り組みにおいて大きな障壁となったのが、モンゴルの人々が持つトイレへのタブー意識です。

「排泄物=汚いもの」として物理的にも意識的にも生活から排除する、男性は座って排泄しない、等の文化的な価値観に加えて、都市化・定住化が進む中、「水洗トイレがない家=経済的に恵まれない」という社会的スティグマの存在が、「汚く臭いトイレ」の問題の可視化を妨げ、トイレ改革を進めることへの心理的ハードルになっているのです。

 

「トイレのタブー」に挑むオユナ

 

トイレ問題の深刻さに気づいたオユナは、モンゴルの人びとの暮らしに合う解決策を探して世界中のトイレを調査し、フィンランドなどで普及する「ドライトイレ」にたどり着きました。水を使わず、管理がしやすく、ゲル地区にも適した仕組みです。

2017年から全国を巡り、7,500人と対話を重ね、タブーだったトイレの意識を変えて人々の行動を後押ししてきたオユナ。その変化が、今回の訪問でも確かに感じられました。

私たちはゲル地区で、オユナの活動を通して最初にドライトイレを導入した70代のご夫婦のお家を訪問。かつて孫たちに「トイレが汚くて怖いから遊びに来たくない」と言われたことで、竪穴式トイレを何とかしたいと考える中で、オユナが推奨するドライトイレを知りました。

庭の片隅にあった竪穴式トイレは埋め戻され、代わりに倉庫の一角に屋内ドライトイレを設置。孫たちも遊びに来るようになり、ゲストも躊躇なく招けるように。排泄物は堆肥化して庭木の肥料として活用していると、ゲル地区には珍しく美しい緑が広がる庭の中を、誇らしげに案内してくれました。

<訪問したご夫婦宅のドライトイレと緑あふれる庭>

トイレ改善の「落とし穴」

 

モンゴルの深刻なトイレ問題には、これまで多くの国際機関や政府も取り組んできましたが、抜本的な解決には至っていないと聞いていました。今回の視察で、その現実を目の当たりにしたのです。

ゲル地区では、政府補助で導入が進む「改良版竪穴式トイレ」をあちこちで見かけました。トタン製の壁と屋根、排気管付きで一見改善されたように見えますが、土壌汚染の原因となる「穴」の構造はそのまま。しかも価格は、オユナの推奨するドライトイレの3倍近く。ある住民は「ドライトイレのことを知る前に改良版トイレを購入してしまい、後悔している」と肩を落としていました。

<政府が普及している「改良版竪穴式トイレ」>

 

「新たな市場づくり」に挑むオユナたち

 

啓発活動を通じてトイレへの意識や行動の変化を促してきたオユナですが、全国に60万基以上残る「竪穴式トイレ」をすべて安全なものに置き換えるには、個人や1つのNGOだけでは限界があります。そこで彼女が事業パートナーであり、農学者で開発コンサルタントとして実績のあるダギーと共に始めたのが、「新たなトイレ市場の創出」でした。

彼女たちは地域ごとにドライトイレの展示販売を担う個人事業者を育成し、販売拠点を広げています。私たちも、ゲル地区でランドリーを営む人や、地方でコンテナ販売をしている人たちが、ドライトイレの販売も手がける様子を見てきました。事業者にとっては商品の幅が広がり収入源が増える一方、オユナたちにとっては普及が加速する——まさにWin-Winの仕組みです。

現在5人のパートナーが活動中で、販売拠点の問い合わせも増えており、この新たな市場が今後さらに広がっていくことが期待されています。

<ドライトイレの販売拠点であるランドリー経営者の女性>

 

ドライトイレの普及を後押しする「グリーンローン」

 

また今回、ドライトイレ普及の追い風となる「グリーンローン」の活用が進んでいると知り、大きな希望を感じました。環境配慮型の活動を支援するこの低金利融資を、オユナたちはドライトイレ購入にも使えるよう、大手銀行2行と合意を結んだのです。

さらに驚いたのは、ダギーが無償でスマホから申請・即日承認できる仕組みまで開発したこと。その結果、滞在中に第一号のグリーンローン利用者が誕生する場面に立ち会えました!

2月の戦略会議で聞いた構想が、こんなにも早く形になるとは——オユナとダギーの行動力に、心から感服すると同時に、この人たちなら本当にモンゴルのトイレ改革を実現すると確信しました。

<トイレの市場づくりに敏腕を奮うダギー>

 

トイレ革命の実現を加速化!モンゴル初「トイレ教育センター」

 

オユナが次に見据えるのは、教育・研修・ショールームを兼ねる「トイレ教育センター」の設立。オユナたちのこれまでの取り組みをさらに先鋭化し、経費負担を増やさずに、ノウハウと人材を共有するハブをつくることで、スピーディかつ持続的に変革を拡散する戦略です。

年間のセンター利用者数は3,500人、うち三分の一は子どもたち、という想定。私たちは1週間のモンゴル視察を経て、ゲル地区の一角に建設予定のこの拠点は、まさにモンゴル社会の「トイレ革命」の実現にとって起爆剤となり得る、とても重要なプロジェクトだと実感しました。

<トイレ教育センターイメージ>

 

インパクトヒーロー・オユナについて

 

私たちはモンゴル滞在中、寝るとき以外のほとんどをオユナとダギーと一緒に過ごし、車の中でも食事中も会話が尽きませんでした。

元大臣でベストセラー作家、インフルエンサーという肩書きとは裏腹に、彼女は気取ることなく、ゲル地区や遊牧民の人びとの輪に自然に溶け込む姿が印象的でした。街を歩けば必ず声をかけられる人気ぶりにもかかわらず、そうした場面でも彼女はいつも控えめで穏やかです。

何より心を打たれたのは、オユナが率先して現場に立ち、自ら汗をかくリーダーだということ。

そして、その変革の歩みを支えているのが、事業パートナーのダギーです。かつては意見が激しく対立し、関係が危うくなったこともあったそうですが、その衝突の中でオユナは自らの限界を認め、実務者かつ専門家であるダギーの存在がいかに重要かを痛感し、共に進む覚悟を決めたそうです。

こうして築かれた信頼関係こそが、トイレ革命を動かす原動力。オユナのカリスマ性と人間性、そしてダギーとの唯一無二のパートナーシップに、深く心を動かされました。

<オユナとダギー>

 

最後に

 

1週間の滞在で出会ったモンゴルの魅力——雄大な自然、深い歴史と伝統、そして何よりも、温かくて懐の深い人々。まさに「帽子を置いたら、そこがもう自分の家」という言葉そのもののように、訪れた家々では惜しみない歓迎を受け、胸がいっぱいになりました。

とりわけ印象に残っているのは、大皿に山盛りの料理をふるまってくれたおばあさんの言葉。「オユナの活動はモンゴルにとって本当に大切。あなたたちはその支援者であり、もう家族です」。初対面の私たちに、そんなふうに言ってくれたことが忘れられません。

今回出会ったモンゴルの人々は皆、決して豊かではなくとも、自分たちの課題と真剣に向き合い、できることに懸命に取り組んでいました。その姿に、強さと希望を感じずにはいられませんでした。

インパクトヒーローを通じて、遠い国の課題も自分ごととして感じる。そんなつながりが、私たちに気づきと力をくれる——今回のモンゴル滞在は、そのことを深く実感する時間となりました。

訪問スタッフ:佐藤真美(日本事務局長)、島田颯(インパクトヒーロー支援マネージャー)、コーネリアス・ペルマナ(ソーシャルメディア&コンテンツクリエーター)

📸 インパクトヒーロー支援のリアルな様子はInstagramでも随時発信中:
@impactheroes.jp をぜひフォローしてください!

 

【8月6日まで│ご寄付のお願い】

現在Earth Companyは、IMPACT HERO 2023オユンゲレル・ツェデブダンバの支援プロジェクトとして、クラウドファンディングに挑戦しています。

モンゴルの衛生危機の解決のために、ご支援よろしくお願いいたします!

支援プロジェクト名:「モンゴルではトイレがタブー? 国内初のトイレ教育センターで衛生危機を解決したい」
目標金額:885万円
期間:2024年6月27日(金)から8月6日(水)まで

詳細は下記、特設ページよりご覧ください。