とますか日記 vol.3:満月の朝、自宅の庭、大空の下で~濱川家の出産物語~

 

こんにちは、濱川明日香です。

妊娠中から多くの方々に気遣って頂きましたが、3月31日、満月の日に、バリ島の自宅の庭で、大空の下、無事第三子を出産しましたのでご報告いたします。
水中での自然分娩で、5時間の安産。家族全員で臨み、愛溢れ、なんとも穏やかで、神秘的なお産体験でした。

団体の代表が自分の出産体験について赤裸々にフォトレポートするのは稀かと思いますが、限りなく自然に近いお産だからこそ体験できた「命が生まれる・命を生む」ということの神秘を、アースカンパニーの世界観に深く共感しご支援いただいているみなさまにはぜひお伝えしたく、書かせていただくことにしました 🙂

 

お産を、限りなく自然に近いかたちで

 

お産のフォトレポートの前に、まずは今回、なぜ自宅の庭で産みたかったのかをお伝えさせてください。

私は昔から漠然と、限りなく自然に近い出産をすることが夢でした。第一子は、古民家で畑仕事をしながらお産を待つ助産院で産みたかったのですが、初産ということもあり、安全をとって、東京の、自然分娩に特化した、畳の部屋で産めるクリニックで出産しました。

妊娠8ヶ月の時にバリ島に移住した第二子の時は、バリ島で自然分娩をできるクリニックを探していた際に、ブミセハット国際助産院を見つけました。これが、IMPACT HERO 2016ロビン・リムを知ったきっかけです。支援前のまだ小さな掘建小屋で運営されていたブミセハット助産院で、ロビンに取り上げてもらいました。

 

「産む力」と「生まれる力」を実感した、第一子出産

 

第一子は、36時間の長時間出産で、陣痛は激痛なのにお産が進まず停滞すると言う長丁場でした。

信じられない痛みと体力の喪失とで、最後の方は意識朦朧とし記憶がありませんが、最後の陣痛のあまりの痛みに、「意識」なるものを遥かに超えたお腹の奥深いところから湧いて出た雄叫びを自分の耳で聞いたときに、「今の、私から出た声?」と一瞬意識が戻りハッとしたのを覚えています。

理性が100%なくなり、一匹の動物と化した瞬間でした。そして看護師さんが「先生!雄叫び出ました!」と廊下を走っていき、分娩台に乗ったら、20分ほどで娘は生まれたのです。

 

「命」はロジックでは生まれない

 

この体験で学んだのは、「命」はロジックでは生まれない、という本質的な事実

私はどちらかというと動物的な人間ですが、出産までにあらゆる本を読み、情報を取り入れ、頭で考えすぎていたがために、自分の体の奥から湧き出る力、つまり「本能」に委ねることに気づけませんでした。
体がしたいと感じていた呼吸法が間違っていると助産師さんに正されたり、いきみたいのにいきむなと言われることも、進行を遅らせた原因だと今となっては感じます。

私たちが今ここにいるということは、医療がない太古の時代から、世界中の女性たちが子供を産み続けてきたわけで、病院がなくても、how to本がなくても、本来、体は「産み方」を知っているのです。そして赤ちゃんも、「生まれ方」を知っています

妊娠は病気じゃない。

そのような考えのもと、次は、自分の「産む力」、赤ちゃんの「生まれる力」を本気で信じよう、と思いました。

 

体の声を聞きながら迎えた、第二子出産

 

そうして迎えたのが、バリ島のブミセハット国際助産院で産んだ第二子の出産。予定日より2週間早く、ちょうど仕事納めの日の朝、陣痛が来ました。

ブミセハットに向かい検診を受けましたが、私の本能が、まだまだ生まれないことを察知し、一度帰宅。なぜか仕事を終えないと生まれない気がして、陣痛の合間に仕事をすること10時間、午後7時に仕事を終了したと同時に陣痛が強くなり、ブミセハット国際助産院へ。

なんの指示をするわけでもなく、ただ私の体の声を聞いてくれる助産師さんたちに支えられ、知宏と娘が見守る中、3時間後に、息子はするっと出てきたのです。19年に一度、冬至と新月が重なる「朔旦冬至」の夜でした。

あれから3年、ある朝、壁のない自宅のリビングルームから庭を眺めていてふと空を見たら、虹がかかっていました。それを見て、妊娠を確信し、今回はこの庭で、この空の下で産もう、と思ったのです。

 

愛情ホルモン「オキシトシン」

 

お産が進むためには、たくさんの脳内ホルモンが作用していますが、陣痛を早める働きをするのが、ギリシャ語で「早いお産」を語源とする「オキシトシン」というホルモンだそうです。ハグやスキンシップなどにより、幸福感を感じる時に分泌され、愛情ホルモンや幸せホルモンとも呼ばれます。

オキシトシンが分泌されると陣痛が早まり、赤ちゃんを押し出すように作用しますが、オキシトシン含め、赤ちゃんが生まれるために必要となる脳内分泌ホルモンの多くは、原子脳、つまり人間が人間になる前からあった脳の部分から分泌されるそう。

そして、ストレスホルモンなどお産を妨げるホルモンは、人間特有の、合理的で分析的な思考や、言語機能をつかさどる脳の新しい部分から分泌されるそうです。つまり、理性や思考が本能を邪魔すると、お産は遅れ、難しくなってしまう

だからこそ、安心安全な環境でリラックスし、愛する人たちと、自然のお産の流れに身を任せ臨むことが、とっても大事なのです。

 

 

満月の夜、陣痛が始まる…

 

庭で産もうと決めた9ヶ月後、陣痛は満月と共にやって来ました。午前4時、陣痛らしき痛みで起きてからロビンを呼びました。

 

たくさんのロウソクに火を灯し、静かにジャズをかけ、お産用のバスタブを準備してくれる知宏と、ロビン、もう一人の助産師さんと私で、はちみつミルクティーを飲みお喋りをしながら、陣痛を過ごしました。

そのうち真っ赤な太陽と共に夜が明けて、午前7時に子供たちが起床。陣痛に唸る私を横に少し圧倒され気味の子供たちに、いよいよ赤ちゃんが生まれてくることを伝えました。


今にも分娩用タブで泳ぎだしそうな息子と、陣痛のたびに背中をさすったり、アロマオイルを塗ったり、気遣ってくれる娘をいつにも増して愛おしく感じ、どんどん幸福感に満たされ、すでに少し夢見心地になっていました。オキシトシンがドバドバ分泌されていたのでしょう。

 

いつもお世話になっているバリ人ファミリーも来てくれ、陣痛の合間には笑い話もし、心温まる時間。

 

午前8時。いよいよ陣痛が強まり、「母なる大地を裸足で歩くとお産が早まる」とロビンが言うので裸足でお庭へ。陣痛中は立っていられないくらいの痛みで、知宏が手を引っ張ってくれました。夫婦共同作業です。

 

その間、私は全く気づいてすらいませんでしたが、子供たちは唸る母に怖がることもなく、出産用のバスタブに入れる花をお庭から摘んでは、タブに入れてくれていました。

 

その頃私は、なるべく普段のように過ごすべく土いじりを試みたものの、痛みのあまり畑に倒れこんでいました…。ロビンの言う通り、外を歩き始めてから一気に子宮口が開いていくのがわかりました。わずか25分で痛みが限界に近づき、急速に理性や客観性が遠のいていきました。

 

バスタブに入った頃には痛みがピークに達し、私にはもう子供たちも見えていませんでしたが、終始、背中をさすったり花びらを背中に乗せたり、お湯を肩にかけてくれていたようです。

いよいよ赤ちゃんの頭が出てきた時、紫の肉塊にしか見えない頭を見て娘が「可愛い〜!」と言ったのには正直びっくりでしたが、娘にもオキシトシンが出ていたのでしょう。

 

そして午前9時、最後に赤ちゃんの幅広の肩が引っかかりなかなか出て来ず緊張感走ったものの、なんとか無事に生まれました!知宏も、子供たちも、最後までしっかりと立ち会ってくれ、「家族で産む」ことができました。

母親は、産後オキシトシンが最高量分泌されるそうで、母性も最高レベルに達しますが、今回は家族全員で産んだので、知宏や子供たちまで、母性全開のようでした。

「命」を共に迎えたこの体験は、私たち家族を強く深く結びつけてくれ、家族として、ひとつ進化したような感覚でした。こうして生まれたことは、この子の一生の宝となるでしょう。

 

「世界平和は、一人の赤ちゃん、お母さん、家族から始まる」 – Robin Lim

 

今回の経験でロビンのこの言葉の意味が、本質的に、わかった気がしました。

複数の研究が、「愛する力の欠如」を自ら感じている人たちと、出生時のリスクファクターに相互関係があることを指摘しています。自分に対する愛であれ、他者に対する愛であれ、「愛する力の欠如」はあらゆる形で顕れ、青少年による自殺、犯罪などにも影響するとの研究結果も出ています。

ロビンが、全ての赤ちゃんは「安全で、愛ある丁寧なお産」で生まれるべきだと、訪れる全ての貧困女性に最善のお産介助を尽くすのは、赤ちゃんが出生時に生存に必要な「愛する力」を育み、母親は妊娠・出産プロセスを通して、子供の生存に必要不可欠となる母性を培い、さらには家族が出産により強い絆で結ばれ、生まれた命が愛溢れる環境で育つことの重要性を、よく知っているからなのでしょう。

この全てのプロセスに、オキシトシンが関係していますが、オキシトシンは、お産の時に分泌されるわけではありません。
女性に限らず、ハグする時、
スキンシップ、セックス、友達とご飯を食べている時、家族団欒、ペットと戯れる時、人に親切にしたり、何かに感動した時など、人が幸せを感じる度に分泌されているそうです。

オキシトシンが分泌されると、他者に対して寛容になったり、相手に対する好奇心が湧き社交的になるため、「絆ホルモン」「信頼ホルモン」とも言われますが、人間の関わりの多くがデジタルな現代、私たちの日常的なオキシトシン分泌量は、減少しているでしょう。

「競争」でなく「共存」こそが、人類が存続するための唯一の戦略なのだと世界が認識しつつある今、私たちは生まれ持った本能をとぎすませ、もっともっと人との「関係」を、大事にしないといけないのかもしれません。

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