5/2/2018 スタディツアー報告:メードインアジア、イノベーションの生まれるところ(後編)
どうすればイノベーションが生まれるか、
本や記事、誰かの話で聞いたことはたくさんあると思います。
でも実際にそのタネが生まれるプロセス、瞬間を体験したことがある人は限られるのではないでしょうか。それも「メードインアジア」のイノベーションの誕生を。
2018年4月に開催したバリ島ソーシャル研修プログラムから、ソーシャルイノベーションが生まれるレポート、後編です!
イノベーションの4つの条件(後編)
ゴミ山での衝撃的なスタートの後、ビーチでランチを楽しみ、ウブドに戻って来ました。
社会貢献やエコの意識が高いウブドでは、環境に配慮した製品、取り組みが無数にあります。
- 不要になった蚊帳やビニール袋からカバンや財布などを作るSmateria(イタリアでデザイン、カンボジアで製造)
- 不要になったタイヤのチューブやスマホの電子基板からアクセサリーなどを作るSapu Upcycle(インドネシアでデザイン&製造、ヨーロッパなどで販売)
- プラスチックゴミを再加工し、小物などいろいろなものに作り変えるPrecious Plastic(オランダ発で世界各地に広がる取り組み)
この他にも多くの製品を手に取り、作り手と話します。
五感でたくさんの刺激、情報を得て、いよいよ製品アイディアを話すディスカッションの時間。
場所は壮大な竹建築、循環型システムで知られるBambu Indahという施設です。
「プラスチックゴミから屋根の素材を作るeco Baliのように、エコな建材がいいんじゃないか。芸術的なオブジェにも使えるし」
「IndoSoleのように靴底に廃タイヤを使ったサンダルもいい」
「どれだけエコプロダクトを作ってもゴミ山のゴミは使い切れない。そもそもゴミを出さないようにするため、見る人がハッとさせられるアート作品がいいのでは」
「ゴミ山でドローン空撮した映像ってどうなった?」
チームでいろいろな意見が飛び交い、アース・カンパニーも事例紹介やファクトを伝え、議論を進めます。
2時間ほどしたところで、ゴミ山に最初に登り始めたデザイナーが
「プラスチックゴミを使った超ハイセンスな**はどう?アートギャラリーに置けるようなセンスの良さで。汚いものから美しいものを作りたい」
と提案しました(**は製品化が進むまでのお楽しみです!すみません!)。
その後さらに議論を重ね、製図ソフトも使ってイメージを具体化させ、この案を採用することになりました。
製品化まではまだいくつも壁がありますが、現在、韓国のデザイナー達が詳細な製品設計図を描いており、日本チームは製造先を調べています。
数ヶ月後には、国際的なデザイン賞も獲得し、話題性もある素敵なプロダクトになっていると思います。
まだ製品化していない段階で先走り過ぎかもしれませんが、このアイディア出しの議論、ツアーには、さらに2つのイノベーションの条件があったと感じます。
それは、「色とりどりで清濁混ざるインプット」と「ノンリニアなプロセス」です。
最終的に採用したプロダクト案は、本当に多様なインプットのたまものでした。
アースカンパニーがツアーという形で、今回のテーマに沿ったものをアレンジしていましたが、結果的には予期していなかったものも多くのインスピレーションをチームに与えてくれました。
例えば、ゴミ山で暮らす子供たちが遊んでいたおもちゃから、「エコなおもちゃ」という発想。
ドローン映像で空から見たゴミ山はゴミではなく、「きれいな色模様」に見えること。
ペットボトルにプラスチックゴミをぎゅうぎゅうに詰め建材とする取り組みから、形に関するヒント。
これらがプロダクト案にいかされました。
「色とりどりで清濁混ざるインプット」が意外な発想につながる典型的な例だと思います。
とはいえ、多様なインプットは大切ですが、それだけではうまく結果につながりません。
そこに「ノンリニアなプロセス」が加わることがポイントです。
新しいアイディアはある日突然降ってくるものではなく、予期しない形で情報がつながり、組み合わされることで生まれます。直線的な一本のプロセスではないものです。
そこでは、事前に計画しすぎず、偶然性(セレンディピティ)が入る余地を残すことが大切です。
この点に関する調査研究はたくさんあり、例えば「良いアイディアはどこで生まれる?」というTEDスピーチがわかりやすいです。
さて、この記事で、イノベーションについて書いた無数の記事をさらに増やしてしまいましたが、一番お伝えしたいことは、
「社会課題を根っこから解決し、かつ関係する人に経済的な利益を生むことは可能だし、それに本気で取り組む人がたくさんいる」ということです。
今回は日本と韓国のデザイナーがインドネシアでデザインし、材料調達や製造でインドネシアの貧困層を巻き込み、それぞれの国の人たちや観光客にプロダクトを届けることで、エコなプロダクトと利益、多くのインスピレーションを国を越えて循環させることを狙っています。
そして、何よりも必要なことは「そもそもゴミを出さないライフスタイル」です。
今回のツアーを終えて、韓国のデザイナーが
「今後の仕事のやり方として、普通のデザインのアプローチだけでなく、環境を意識し、考えを変えないといけないと思えた」
と言っていました。
アース・カンパニーとしては、そのように人が変わり、意識が変わる瞬間を生み出せたことが最大のアウトプットでした。これからも、次世代に残せる未来のため、社会変革を起こす人と団体を応援していきます。
〈筆:Earth Company経営企画・プログラムマネージャー 田丸〉
参考:
・ゴミ山に暮らす子どもたちを支援するNGO(Bali Life Foundation)を紹介:ECブログ
・熊本のデザイナー集団:Bridge Kumamoto
・韓国のデザイナーが手がける会社:OBXET