8月 25, 2022

ロヒンギャ大弾圧から5年、ミャンマーの現状をわかりやすく!人々の声なき声を届ける

先月7月30日、ドキュメンタリー作家の久保田徹さんがミャンマー最大の都市ヤンゴンで拘束されたと報道がありました。

Earth Companyは、久保田さんにロヒンギャ難民の現状を伝えるドキュメンタリー動画「祈りの果てに」の使用を快諾いただき、2018年のロヒンギャ難民特別支援で難民キャンプの学校を支援することができただけに、大きな衝撃でした。

ロヒンギャ大弾圧が始まった8月25日の今日、私たちが支援するチェンジメーカーで、IMPACT HEROのウェイウェイの活動を通じて、ミャンマーで何が起きているのか、その現状を改めてわかりやすくお伝えしたいと思います。

2017年8月25日、ミャンマー国軍による武力弾圧によって、70万人以上のロヒンギャの人々が隣国バングラデシュに逃れ、日本でも大きなニュースになりました。しかし、久保田さんはそれ以前からロヒンギャ問題に関する動画作品「Light up Rohingya」を制作するなど、大学生の頃からこの課題に精力的に取り組んできたのです。(このブログのヘッダー画像は、久保田徹さんのドキュメンタリー動画「祈りの果てに」の一場面です)

ミャンマーのクーデターの背景

現在もミャンマーの人々を苦しめているクーデターは、2021年2月1日、ミャンマー国軍によって実行されました。国軍は、前年の11月に行われた総選挙で「不正があった可能性がある」と主張し、大勝したアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)を批判。そして、ミャンマー全土に非常事態を宣言し、スーチー氏をはじめとするNLD関係者を拘束し、全権を掌握しました。

ミャンマーでのクーデターは、これが初めてのことではありません。

日本占領時期を経て、1948年に英国の植民地から民主主義国として独立した後も、政治の混乱は続き、過去2度目のクーデターでも民主派が弾圧されてきた歴史があります。

そして3度目となった今回のクーデターは、発生直後から民主化を望む市民によって、国軍に反対する大規模デモがミャンマー全土で行われました。しかし、今回も国軍によりデモ隊に発砲するなど弾圧が広がり、多くの逮捕者と負傷者、死者が出る事態になりました。

こうした国軍による弾圧は国際社会から批判され、米欧は国軍幹部や関係する企業に経済制裁を強めてきました。

今、ミャンマーで何が起こっているのか

クーデター発生から1年半以上が経過し、現在までで15,000人以上が逮捕され、12,000人が拘束されたままで、2,200人を超える人たちが殺されました(AAPP調べ)。こうした状況に、大規模なデモの実施はできなくなってしまいました。

けれども民主化を切望するミャンマーの市民は、様々な方法で国軍への抗議を継続しています。SNSで国外の活動家と連携をとり、ミャンマー国軍の犯罪行為を国際社会にアピールしたり、一斉に仕事を休み店舗や施設を休業する「サイレントストライキ」など、地道な抗議活動は続いています。

一方で、ミャンマーの国内避難民の総数は2022年7月18日までに120万人を上回り、うち2021年2月のクーデター後の紛争で避難した人の割合は7割を超えたとされています(UNHCR調べ)。武力紛争は激しさを増し、ミャンマー全土の治安が悪化の一途をたどっています。

ミャンマーの民主化のために活動するウェイウェイ

今回のクーデター以前から、ミャンマー国軍は少数民族に対する弾圧を行っていました。中でも最も残忍な行為を受けてきたのが、久保田さんが長年寄り添ってきたロヒンギャの人々でした。

Earth Companyが支援するチェンジメーカーのIMPACT HEROの、ウェイウェイ・ヌーも、その一人です。ウェイウェイはミャンマー出身のロヒンギャであり、現在は米国に亡命して、人権活動家として活動をしています。

ウェイウェイが人権活動家として活動するようになったのは、2005年、ミャンマーに暮らす大学生だったウェイウェイのもとに突然襲い掛かった悲劇がきっかけでした。

「父親がアウンサン・スーチーと議会で一緒にいた」

たったそれだけの理由で、15人の警官が夜に家に押し入り、家族全員が逮捕され、刑務所生活を余儀なくされてしまったのです。

裁判もなく懲役17年を言い渡され、ウェイウェイは、現在久保田さんが囚われている刑務所と同じ、ヤンゴンにあるインセイン刑務所に投獄されました。

ウェイウェイが収容されたのは、1室に100人を超える人たちが収容される夢も希望もプライバシーもない過酷な環境。同じ牢獄に収容されている女性たちの劣悪な生活環境を目の当たりにし、衝撃を受けました。それから収容されている多くの女性たちの話に、耳を傾け続けました。彼女たちの境遇を聞くうちに、「少数民族と女性が守られる、本当の民主主義の国で暮らしたい」と思うようになりました。

2012年に釈放された後、ウェイウェイは少数民族と女性の権利を守るため、Women’s Peace Networkを創設しました。また、獄中での生活で、人間の尊厳だけでなく、教育の機会も奪われた人々とたくさん出会ってきました。そこで、2015年に未来を築く若者世代を教育するため、ヤンゴン・ユース・リーダーシップ・センター(YYLC)を設立したのです。

EARTH COMPANYがミャンマーのために行ってきた支援活動

こうしたウェイウェイの活動は世界的に注目され、国連や国際会議という大舞台でアドボカシー活動を行うまでになりました。また、ミャンマー国内では平和構築&リーダシップ教育を提供し、トップダウン&ボトムアップ双方のアプローチで変革を進めてきました。

Earth Companyでは、ウェイウェイの活動を支援するために、2019年にYYLCの教育プログラムの運営費を集めるためのクラウドファンディングを実施。同プログラムの卒業生の中から、2021年2月のクーデター後から市民的不服従運動(CDM)でリーダーシップを発揮し、米TIME誌「最も影響力のある100人」にも選ばれた少数民族の女性リーダーも誕生しました。

さらに軍事クーデター発生直後は、国際社会の協力を求めるウェイウェイのアドボカシー活動を支援するために、「真の民主化を目指すミャンマーに支援を!緊急クラウドファンディング」 を実施。ウェイウェイの活動に共感いただいた317人の方から、367万5000円円のご寄付を賜り、寝る間も惜しんでアドボカシー活動をするあまり、活動費の調達が困難な状況が続いたウェイウェイを支えることができました。

そうして国連や米国政府への政策提言をするほか、軍の組織犯罪を立証するためにミャンマー 独立調査メカニズムの設立にも関わるなど、今もなお、ウェイウェイはミャンマーの民主化のために尽力しています。

ミャンマーの現実を伝えてくれている、ヒーローの存在

国軍による言論統制が強まるミャンマーでは、反軍にあたる情報を発信することは命がけの行為。市民が直接国際社会に助けを求めることは、ほとんど不可能になってしまいました。そうした中で、ミャンマー国外に暮らすウェイウェイのような活動家や、久保田さんのようなジャーナリストの活動は、市民にとっては蜘蛛の糸のような頼みの綱であり、ミャンマーの民主化を渇望する人々にとっての「ヒーロー」なのです。

現在久保田さんは、ウェイウェイが収容された大人数が一緒の部屋で雑魚寝する一般の政治犯とは違い、外国人や閣僚などVIP用の独房に収容されている可能性が高いと言われています。しかし、決して快適とは言えません。簡素なトイレにはトイレットペーパーもなく、普段手で処理することがない日本人にとっては厳しい環境です。また独房の入り口の鉄格子からは、激しい風雨があると水が部屋の中まで入ってきてしまいます。そこに独り囚われている久保田さんの心境を思うと、息が詰まりそうです。

ロヒンギャのジェノサイドから丸5年が経つ今年の8月25日、久保田さんのドキュメンタリー制作とロヒンギャ難民支援のために、お互いに支え合ってきた在日ビルマロヒンギャ協会は、この日に久保田さんの解放を求めて記者会見を行うほか、同協会が支援するロヒンギャ難民キャンプの学校からも解放を呼びかける予定です。

Earth Companyとしても、ウェイウェイと同じく、声をあげられないミャンマーの人々のために、危険を顧みず現状を伝えようとしてくれた久保田さんの、一日も早い解放を求めます。

ぜひ皆さんも、多くの機会を奪われたミャンマーの人々の未来のために、寄付や署名活動を通して、引き続きの支援をよろしくお願いいたします。


→久保田さんの解放を求める署名活動はこちら

 

<参照記事>

・Earth Company ロヒンギャ難民特別支援(2018年)

・What’s happening in Myanmar(AAPP)

・国内避難民120万人超、クーデター後が7割

・ロヒンギャ難民を忘れないで 大規模流出から8月で5年 ウクライナ危機で薄れる関心、細る支援

・慶応大在学中の久保田さんの活動について

・久保田さんが収容されたインセイン刑務所の実態とは

・ミャンマーの少数民族の女性リーダーが選出|米TIME誌「最も影響力のある100人