前回のとますか日記では、妻・明日香が、満月の朝、自宅の庭、大空の下で産み落とした濱川家第3子の出産物語について書きましたが、今回は、僕が夫の視点から「男の出産」について書かせて頂きます。
はい、「男の出産」です。読み間違いではありません。笑
日本では、男性は「妊娠・出産に男性が入る余地はない」、「タッチしてはいけない領域」と考えるのが一般的ですが、僕も「出産における男の役割」について考えたことすらありませんでした。
実際に第一子を授かってみて、なんとなく興味もあったし、大きなライフイベントなので参加した方が良いだろう、くらいの感覚で出産に立ち会いましたが、それは僕にとって人生を変える体験でした。
36時間、男には到底我慢できないだろう痛みに耐え、苦しみもがく妻に対して何もできない自分の無力感。妻はもちろん寝れないのに、ついうたた寝してしまった時の罪悪感。そしてここまでして自分の子供を産んでくれるのか、という妻への感謝。渦巻く感情の間で僕は、ただ見守ることしかできませんでした。
この体験で僕の出産に対する見方や妻に対するリスペクトは、一生分変わったのです。
とは言え、僕の父性愛は、決して自慢できるものではありません・・・?
自分の子供でも産後間もない赤ちゃんは血まみれの塊で、しばらくは「猿のペット」のような感じ。子供が2歳になりコミュニケーションが取れるようになり、初めて父親としての感情がようやく湧き出す、「妻泣かせ」の夫です。
最近周りには、赤ちゃんを溺愛し、オムツ替えを喜んでするくらい父性愛(むしろ母性?)が強い男性が結構いて、僕のような男は肩身が狭い今日この頃です…苦笑
そんな僕が、今回は、出産にかける思いが違いました。
今回陣痛の始まりから一緒に過ごし、実際にバスタブに入り、娘を取り上げるつもりで最後まで徹底的に寄り添ったのは、自宅出産だったというだけでなく、出産1ヶ月前に出会ったある人の教えが大きく影響したのです。
その人は、マオリ族のバースキーパー(birth keeper)、テカハ(Te Kaha)。
ちょうど出産1ヶ月くらい前のある日、アース・カンパニーが支援しているIMPACT HERO 2016ロビン・リム(ブミセハット国際助産院代表)から連絡があり、「妊婦の旦那さん向けの研修があるから、助産院においで」と招かれました。
個人的に興味があった上、ロビンからの提案はいつも間違いないので、迷わず参加しました。
曇った金曜日の昼間、夫婦で助産院に足を運ぶと、顔面伝統のタトゥーで埋め尽くしたマオリ族のテカハが待っていました。
目が合うと、彼が歩み寄って来て、いきなり僕の顔に顔を近づけ、鼻と鼻をつけるマオリ独特の挨拶「ホンギ」を交わしました。
後でテカハが、ホンギには、鼻と鼻が触れる時、お互いに鼻から息を吐くことによって、生命の息吹を分け合うという意味があると説明してくれました。タトゥーのインパクトが強過ぎて、外見は正直ちょっと怖ったですが、彼のしなやかで愛溢れるオーラに触れ、一瞬で距離が近づいたのを感じました。
それから2時間弱、テカハから「妊娠・出産における夫の役割」を学ばせてもらったのですが、一番印象に残った3点をここで共有させて頂きます。
①“My wife is pregnant”ではなく、“We are pregnant”と言うべし!
テカハがまず男性陣に伝えたのは、妊娠の伝え方についてでした。
「言葉は考えを表すと同時に、考えを形成するので非常に重要」と彼は言います。更に、「自分の妻が妊娠した場合、”she is pregnant(彼女は妊娠している)”ではなく、”we are pregnant(我々は夫婦として妊娠している)”と言うべきである」と強く勧めました。
日本で男性が「僕たちは妊娠しています」という事はまず無いですが、「妻が妊娠しています」というフレーズには、「妊娠」という現実を男性から遠ざける効果があり、一種の責任転嫁であるというのが彼の主張です。
人生初のマオリの挨拶「ホンギ」
よく考えると彼の言う通りで、男性は無意識的に妊娠・出産のプロセスから逃げる傾向があるのかもしれません。
「自分が作っておきながら、ひどい話だ!」と冗談半分で語るテカハに対して、男性陣皆深く頷きざるを得ませんでした。
② 妻と胎児に対する愛情表現は、妊婦マッサージ
マオリの世界観には、「母なる大地」(マザーアース)と「父なる空」(ファーザースカイ)が根底にあります。マザーアースは聞き慣れた言葉ですが、ファーザースカイは初耳でした。
この世の全てのものの生みの親が大地と空であり、その間に空気が生まれる。水は愛情であり、雨という形で空(夫)から地(妻)に渡り、霧という形で思いは返され、その循環により地球の命を育む。
そんな大地と空のように、一つの命を産む過程には男性と女性の役割があり、そこに愛情がなくてはいけない、とテカハは語ります。
では、妊娠中の夫の役割とは何でしょうか。お腹の大きい妻に対して男性は何ができるのか。
男は疲れていたら、5分間でも横になって、休憩をとれる。でも、妊婦は10ヶ月間、1分も重たいお腹を取り外すことは出来ない。男性が「今日も残業、よく働いた〜!」とビールを飲み干す瞬間も、妻は24時間つわりや倦怠感に耐えお腹の中で人間を育てている上、ビールを飲むこともできない。
「男性はその境遇を理解して、妊娠初期から始め、後期には毎日、30分くらいのマッサージをしてあげなさい」とテカハ。
負担のかかる足裏やふくらはぎ、腰や背中を、アロマオイルを使って丁寧にほぐす。出っ張ったお腹のてっぺんは避けて、お腹の周りを反時計回り、臨月に入ったら時計回りにゆっくり触ってあげる。
お父さんのマッサージをお母さんが楽しむことによって、胎児もその気持ちが伝わる。
父親の声が外で聞こえたら、お母さんが喜ぶ。
「父親の存在=母親の喜び」という方程式が胎児に伝わり、父親は喜びを持って来てくれる人と自然に解釈し始める、とテカハは説明します。そのつながりができれば、産まれてからも赤ちゃんと父親の絆が強くなるのです。
それから僕は、子供が産まれるまでの4週間、ほぼ毎晩妊婦マッサージを行いました。
すると5歳と3歳の子供たちがマッサージを真似したがり、いつの間にか3人で明日香を労ったり、娘が弟に妊婦マッサージをする、という面白い光景が臨月には出来ていました。
③ 壮大な父性愛・人類愛
たったの2時間でしたが、テカハから吸収させてもらった一番重要なことは、言葉使いや手先のスキルではなく、彼の存在だったと思います。それは一言で言うと「壮大な父性愛と人類愛」。
ブミセハット助産院のロビンが母性愛を体現した人ならば、テカハは父性愛の塊。
その愛の熱量を感じたのは、テカハが夫婦1組ごとに行ってくれたカウンセリングでした。
ベッドに横になる明日香の横に腰掛け、手を触れず、じっとお腹を見つめました。素人の僕には何をしているのか理解に苦しみましたが、数秒後、テカハは「この子は大丈夫。特に気になることはないでしょ?ないなら、僕の介入は必要ない」と優しく断言しました。明日香もそれをわかっていたようでした。
集中力を高め、母体の中の胎児と違う次元で交信するその姿は、まるで自分の子供を温かく見つめるような眼差しでした。
エゴを取り除き、慈悲と責任感に溢れた存在。
赤の他人が自分の子供に見せる父性の姿勢に、はっとしました。仕事や子育てに疲れたと言っている場合ではないと気付かされた瞬間でもありました苦笑
父親業の試練はこれから
僕も年を重ねる度に、everything is meant to be(全ては必然である)と感じています。
だから、今回の出産1ヶ月前にテカハと出逢い、インスパイアされ、父親としての役割を学んだのも、大きな流れの1つのように思っています。あの教えがなかったら、自宅出産に対する心構えも足りなかったかもしれません。
とは言え、実際に、より良い夫・父になったかは正直分かりません。それは明日香に確認頂くか、数年後、娘の弥に聞いてみてください!
※参考:Te Kaha’s website